楽曲探訪 第1回「街でのひととき」


さて、今回から少しずつ、演奏会で取り上げる楽曲についてアレコレ自由に書いてみようと思います。その曲の練習の様子なんかも織り交ぜつつ……


第1回は、ドラゴンクエストIV から「街でのひととき」


この曲は、世界各地の街の賑わいを感じさせる「街」、一攫千金を狙ってついつい冒険を忘れて没頭してしまう「楽しいカジノ」、ひんやりした悪寒と血のたぎる興奮を呼び覚ます「コロシアム」がメドレー形式で構成されています。


「街」では、街の楽しい雰囲気が全体を支配していますが、ところどころ「あれ?お祭りやってるのかな?」と思うような仕掛けがあったりして楽しいですね。わくわくした感じで音が膨らんでいくところ、調が変わってちょっと裏通りに迷い込んでしまったような感じ、道行く馬車にぶつかりそうになってしまってびっくりしたりなど、そんな場面を勝手に想像して演奏にあてはめていくのも楽しいですよね!


「楽しいカジノ」は、文句なく楽しいスウィング調の楽曲です。トランペットの楽しげなソロに、少し酔っ払ったようなトロンボーンクラリネットが絡みます。そういった管楽器のソロも大事ですが、忘れてはならないのが弦楽器のアンサンブル。うすーい感じの和音を奏でるところなど、オーケストラならではの面白さがあります。そういう意図的な「薄さ」「チープさ」を表現するためには、まずはしっかりと音を出すことから始めます。ただ小さい音で演奏すればいいってものでもありません。
今のところは、前回サイファさんが書かれたように「カジノがダンジョンになってる!」状態ですけど、土台のしっかりした発音で、弓の動きを工夫しながら軽やかに音を滑らせていく……そんな大人のオシャレを感じさせる演奏をこれから目指していきたいですね。

「コロシアム」は、弦楽器がコロシアムのひんやりとした不気味な静けさと予兆を表現しています。フルートやオーボエのソロの下で、コントラバスが不気味なベースラインを奏でるところは僕も大好きです。
さて、そんな静かなコロシアムも、いよいよ戦いが始まるとなると音楽も一気に興奮します。立ちはだがるモンスター、狂喜する観客、鉄のツメを装備して身構えるアリーナ姫の様子が目に見えるような展開ですね。このオケの金管楽器陣は大変強力でして、コロシアムのファンファーレでは、そんな現場の興奮を呼び覚ましてくれます。


僕が今回の演奏会で大切にしたいのは、「ドラクエをプレイして楽しかった思い出に浸る」っていうのではなく、「オーケストラのメンバーみんなが、まさにドラクエの世界にいて、そこで体験したこと、目にしたこと、恐怖を感じたことを音にしていく」っていうことです。
今回の「街でのひととき」で言えば、「街の中で移動したり会話した楽しさ」を表現するのではなく、「街でいろいろなものに触った感触、カジノで興奮してコインを握りしめた汗の感覚、初めてコロシアムの戦いを見て、血が冷めたり熱くなった感情の起伏」を大切にして演奏したいのです。
「たかがゲームで」と笑われるかも知れません。でも、このオーケストラは、たぶんそれくらいドラクエに対して真剣です。


みなさんの期待を裏切らない、生々しい興奮を感じられる演奏会になるよう、一生懸命練習して努力していきたいと思います。



※ 「もょ響アーカイブ」は、2009年に「もょもと交響楽団 活動報告」ブログで投稿したものを、一部アーカイブとして整合性がとれるよう編集して掲載します。