楽曲探訪 第4回「勇者の仲間たち」


今回の楽曲探訪は、ドラゴンクエストIV より、そのトルネコも大活躍の「勇者の仲間たち」を取り上げます。
この曲では、ドラゴンクエストIV の各章で登場するキャラクターたちのテーマ曲が次々に現れます。
「間奏曲」「戦士はひとり征く」「おてんば姫の行進」「武器商人トルネコ」「ジプシー・ダンス」「ジプシーの旅」のメドレーになっています。それぞれの曲について、僕が思うところを少しずつ述べていこうかと思います。


▼ 間奏曲


ドラゴンクエストIV のみならず、以降のシリーズの「ぼうけんのしょ」を読み込む BGM としてすっかり定着した、かわいらしい小品です。
オーケストラでは、ちょっとしたわくわく感を煽るようなハイハットシンバルの細かいリズムに乗せて、弦楽器たちがピツィカート奏法(弦を指で弾く奏法)で音の粒を散りばめていきます。
短い曲ではありますが、弦楽器の中でもメロディを演奏する人、メロディに対して合いの手を入れる人、和音とリズムを与えていく人と、さまざまな役割があります。弦を弾くかわいらしい音色や、演奏者同士の掛け合いをお楽しみいただけるとうれしいです。


▼ 戦士はひとり往く


第一章、戦士ライアンのテーマです。
ホルンがゆったりとしたテーマを堂々と演奏します。「戦士はひとり往く」の「ひとり」には、寂しさや不安といったものは感じません。だってライアンは強いもの。
でもよく聴いていくと、ライアンのテーマを後から追いかけてきたり、合いの手を入れてくる楽器がちらほら現れます。本当は、ライアンはひとりじゃないんですよね。傍らには、いつも青い色したアイツがフワフワ浮いてるのです。ホルンが演奏するこの牧歌的なテーマは、低い音から高い音まで広い音域を使って演奏しています。ホルンはその音域の広さでも特徴的な楽器ですが、低い音から高い音までうまくコントロールしながら吹くのはなかなか大変!


おてんば姫の行進


第二章は、ちょっと元気すぎる格闘家のアリーナ姫と、その従者たちのテーマ。
トランペットのあっけらかんとしたテーマが印象的ですが、メロディの最後で音がどんどん降りてくるところは、途中からホルンに交代して演奏しているんです。もちろんトランペットの音域的な問題でこういう処理がされているという見方もありますが、ちょっと視点を変えると、アリーナが好き勝手にフラフラ出歩く(トランペット)のを、クリフトとブライが慌てて取り押さえようとしている(ホルン)ようにも聴こえます。そう考えて聴いたり演奏すると、ちょっと面白いですよね。でもそんな従者の困惑をよそに、やっぱりアリーナ姫はわが道を行くかのごとく、トランペットが高らかに独奏を再開します。トランペットが演奏している間は、ほかのパートも控えめな伴奏になります。アリーナ姫が周りを気にせず気の向くままに行動してる様子が感じられて、楽しい部分です。


武器商人トルネコ


第三章は、武器商人トルネコのちょっと変わった冒険です。
トルネコは、これまでの英雄的なイメージの RPG からは程遠い外見をしています。まん丸の体型、強そうでもない風貌、それに妻子だっている。とても体一つで世界を救ってやろう!という感じではありません。でも成り行き上、結局は魔王を倒すという大冒険に巻き込まれてしまうのですが、音楽はそんなトルネコの特異性を表現することに集中しています。テーマは、コントラバスをはじめ、オーケストラの中でも低音域を担当する楽器が演奏します。これはオーケストラのメンバーにとってもちょっとしたサプライズ。普段は壮大なオーケストラサウンドの低音をずっしり支えていた方たちが、ここぞとばかりに目立てるところです。普段なかなかメインで聴くことのない楽器たちのサウンド、心行くまでご堪能ください!


ジプシー・ダンス


ドラゴンクエストシリーズの戦闘のテーマの中でも、恐らく指折りの人気曲ではないでしょうか。
第四章、踊り子マーニャと占い師ミネアの姉妹が戦うさまを実に妖艶な東洋的音楽で描いているこの曲、主役はもちろん弦楽器のみなさんです。鮮やかで少し棘のあるメロディとリズムは、一度聴くと癖になってしまいますね!第五章でも、この音楽を聴きたいがためにわざわざマーニャを先頭に配置したことのある人も多いのではないでしょうか。この曲はテンポが速いうえにリズムも細かいので、奏者は本当に大変です。楽器編成も意外とシンプルで、余分な飾り気のない部分ですから、オーケストラ的には「ごまかしの効かない部分」といえます。官能的ながらも、「この 2人、敵に回すと怖いよ☆」という鋭さも備えた演奏になればいいなと思います。
この曲の最後には、ヴァイオリンのカデンツァ(自由な独奏)が待っています。ここはもょ響自慢のコンサートマスターが演奏しますが、その演奏研究たるや素晴らしいものです。練習の回を追うごとに(いい意味での)エロさが増しています。それを指揮者として一番近い場所で聴けるのは、本当に幸せなことです。


ジプシーの旅


第四章の旅のテーマです。姉妹の父の仇・バルザックを討とうする悲壮な決意が感じられる、侘しい雰囲気の曲です。
そんな中でも、二人の感情の高まりや強い意志が時折顔を覗かせるような部分があり、オーケストラの充実したサウンドが堪能できます。音楽の最後に迎える弦楽器のアンサンブルは、つらい運命を背負った姉妹にひと時の安らぎを与える子守唄のようにも聴こえますね……。


さあ、このあとの第五章はいよいよ主人公である「あなた」の冒険が始まるのですが、この曲では第四章までの紹介になります。
残念ながら今回の演奏会のプログラムにはありませんが、この主人公の旅を描いた 「勇者の故郷馬車のマーチ」 も、大変な名曲だと思います。
勇者の過去や旅に対する思い、そしてたくさんの仲間を得たときの心強さ……そういうことを考えながら聴いてみると、また違った楽しみや興奮を見つけられそうですね。


※ 今回登場した楽曲名は、リリース当初の楽曲名をそのまま使用しております。



※ 「もょ響アーカイブ」は、2009年に「もょもと交響楽団 活動報告」ブログで投稿したものを、一部アーカイブとして整合性がとれるよう編集して掲載します。