楽曲探訪 第6回「そして伝説へ」


合奏練習中のドラゴンクエストIXすれ違い通信は本当にすごいです。前回の練習でも、20名近くのメンバーとすれ違うことができました。「じゃ、10分休憩ー」の宣言と同時に DS を開くオケメンバーたち。かわいいなみんな!(自分含む)


さて、コンサート本番も近くなってまいりました。
この連載も残り少ない回数なんだろうなーと思いつつ、僕にとって大変特別な思い入れのある楽曲、ドラゴンクエストIII「そして伝説へ」について書きたいと思います。


初期のドラゴンクエストシリーズの中では、序曲と並んでトップクラスの人気を誇る楽曲ではないでしょうか。
ドラゴンクエストIII の物語の終わりと、ロト伝説の始まりを同時に演出するという、特異な性格を持った曲です。


冒頭の有名なトランペットのファンファーレ、そして序奏のあとで現れる美しいメロディー。
なんとなく「素敵だなー」的な感じで聴き過ごしてしまいそうですが、これも視点を少し変えてみると、アレフガルドのライトモティーフを素材にしています。また、ファンファーレは、ロトのテーマの最初の音程差とも合致します。
特にこのドラゴンクエストIII においては、アレフガルドのライトモティーフを様々な曲でふんだんに用いています。音楽面でも、ロト伝説との関係性を強く示しているということですね。


楽曲の魅力についてはみなさまも十分に熟知されていると思いますので、私事で恐縮ですがこの曲についての思い出を書き留めておきたいと思います。


僕はいま、こうしてオーケストラの指揮台に立たせていただいていますが、そもそも指揮者として勉強を始めたのは、中学3年生のときでした。
中学校の吹奏楽部に所属し、毎日トランペットを吹いていましたが、クラスの担任でもあった顧問の先生が進学指導等で忙しくなり、「替わりに指揮をしてみないか」と言われたことが始まります。
その頃勉強していた指揮法といえば、音楽の教科書に書いてあった 4拍子や 3拍子の簡単な図形だけ。確かに顧問の先生もそういう図形を描いて指揮棒を振っていたし……と、先生の真似事のように指揮をしました。
多感な思春期ですから、自分以外全員女の子の部活で彼女らを相手にして指揮をするなんてのが、まず音楽的にどうこうってよりも、恥ずかしい思いのほうが強かったですね。


そんな中、卒業間際になって、人前で初めて吹奏楽の指揮をすることになりました。そのときの曲が、何を隠そう吹奏楽版の「そして伝説へ」。
どんな演奏指導をしたのかなんて、今はまるで覚えていません。それでも、自分が大好きな曲を自分の思うように整えて、指揮棒を振って「演奏する」という、トランペットを吹くときはまるで違う演奏体験が、少年ヤンガス田中にはあまりに衝撃的だったのです。


高校進学後も、幸いにして指揮を続ける環境に身を置くことができ、たくさんの勉強と経験ができました。
そして、初めて「そして伝説へ」を指揮したときから18年もの年月が経過した今、僕はもう一度同じ曲に正面から向き合っています。
15歳の頃の自分と対話しながら、そしてかけがえのない経験をさせてくださった当時の顧問の先生に感謝をしながら、噛みしめるように演奏を楽しみたいと思っています。


大げさかも知れないけど、今にして思えば、15歳のときのあの初指揮台経験が、まさに


 「そして でんせつが はじまった!」


だったなーって、少し思ったりします。


これを読んでくださったみなさまにも、人生のターニングポイントがそれぞれにあると思います。
夢を追うことや、それを叶えていく意義について、改めて見つめ直すきっかけになればうれしいです。



※ 「もょ響アーカイブ」は、2009年に「もょもと交響楽団 活動報告」ブログで投稿したものを、一部アーカイブとして整合性がとれるよう編集して掲載します。