JR東日本東京吹奏楽団 第16回定期演奏会


JRさんのコンサートだというのに、ホール近くの王子駅までJR線を一切使わずに来てしまいました。罰当たりめ!でもしょうがないじゃない。うちからホールまでJRなしで行けちゃうんだもん。


実はこういう企業吹奏楽団は、以前から大変強い興味がありました。というのも、一般の市民吹奏楽団や市民オーケストラ等のアマチュア楽団と違い、「企業が公認した」楽団・活動であることに着目すべきだと思ったからです。


企業がサークルや部活動などの形で公認し、ある程度の資金面や施設面、労働面等での支援・援助を得て活動できるということ。企業サイドとしては、こういう福利厚生を提供することで従業員の勤労意欲の向上を図り、あるいは文化・スポーツ等の普及・啓発活動に際して、企業面を冠することで CSR 的な効果を狙っているのかも知れません。いずれにせよ、企業や上長、同僚等の理解を得て活動をしている点で、一般の市民アマチュア楽団とは仕組みが違います。


一般の市民アマチュア楽団においては、主に楽団員の参加費によって運営され、すべての活動を自分たちの作業と責任によって行いますが、企業楽団においては、後ろ盾としてその企業が存在することになり、当然なんらかのかたちでその企業に対してフィードバックがあるべきなのでしょう。それが吹奏楽団であった場合には、その演奏活動について対外的にアピールして、企業の存在感や社会貢献活動等を知らしめ、企業のイメージアップを図ることもできます。


今回聴きに行った「JR東日本東京吹奏楽団」は、プログラムや司会の方の説明によりますと、首都圏のJRグループ各社に勤務する従業員を中心にしたメンバーで構成されており、社内の各種イベント、社内の各サークル等の応援演奏、地域のイベントでの演奏等で活躍しているとのことでした。プログラムにカラー写真でその様子が紹介されているのは、大変わかりやすくてよかったです。


コンサートの冒頭で、吹奏楽団の顧問を務めていらっしゃる財務部長さんが挨拶されており、企業としてしっかり吹奏楽団の活動をバックアップし、市民(というか普段の乗客としての顧客)としっかりコミュニケーションをとろうとする姿勢が感じられました。これはすごいと思いました。ただ、若干違和感があったのは、会場に会社の役員の方がいらしたことを司会の方がアナウンスしたときに、「いらっしゃっています」と敬語を使ったところ。司会の方も従業員のようなので、確かに彼女らからしてみれば大変偉い方なのですが、客に対してはあくまでホスト側でしかないので、身内を紹介するように「同席させていただいております」的な謙譲表現のほうが良いと思いました。「いらっしゃっています」だと、客に対して「ほら、シャチョさんから来てるんだからみんな崇めなさいよ、ほら!」と言っているようなイメージをもってしまいます。


ついでなので、司会演出について個人的な感想を述べておきます。
原稿棒読みの司会ほど、聞いていてつらいものはありません。棒読みだけならまだしも、それを二人で交代交代で読み上げるというのも、正直見ているほうはハラハラします。今回担当されたお二人とも、落ち着いた口調で丁寧に話してくださったのですが、全体的な構図としてはやはり違和感を感じました。司会を一人にするか、二人にするならそれなりのメリットが活かされるようなコミュニケーションが生まれる司会演出にするといいんじゃないかと思います。司会は聴衆のガイド役ですので、もっと積極的に聴衆を見て話す(=原稿ばっかり見ない)と、聴衆の興味を引きやすいのではないかと思います。
また、司会原稿の日本語の稚拙さと難解さの同居が気になりました。日本語としての構成があいまいなところもあり(これはもしかしたら原稿を読み間違えたのかも知れませんね)、はたまた一般の客の前で「オブリガート」なんて難解な音楽用語をさらっと言ってしまったり。全体的には、聴衆に親しみやすいエピソードを挿入するなどの工夫がされていて良かったと思いますので、もっともっと司会演出を磨くと、より楽しい演奏会になるのではないかと思います。


あと、ほんと細かいことで恐縮なんだけど、入場時のスタッフ配置や誘導が好ましくないように思いました。入場の列がバラッバラになってしまい、列待ちのお客さんが混乱していました。ここも工夫が必要でしょうね。


コンサートは 2部構成で、第1部がクラシック系、第2部がポップスというステージでした。


第1部のクラシック系のステージは、演奏面では正直言って(すみません、ここだけあえて言葉を選ばずに言いますと)これほど客をバカにした演奏をする楽団も珍しいと(この時点では)思いました。ごめんなさい、でもあとでいいところいっぱい言うから!


まずチューニング。まったく合っていない状態で演奏を開始されていました。これではチューニングの意味がありません。チューニングは単なる儀式ではないはずです。よしんばステージ上でのチューニングが儀式的なものであったとしても、事前に十分なチューニングを済ませておくべきでした。


演奏面についてですが、パート内での音のコミュニケーションはある程度取れているようなのですが、パート間やセクション間でのアンサンブルがまるで取れていない状況で、これではさすがに音楽慣れしていない一般の聴衆にもバレてしまうような脆さであったように思います。普段、乗務やその他業務でなかなか団員が集まって練習できないとの話もありましたので、その点は大変苦労されたと思います。特に合奏練習に人が集まらないつらさというのは、僕自身もよくわかります。せめてコンサートが近くなった時期には、メンバー同士で協力して、今よりももっとしっかりとした合奏練習ができるように工夫をすると、良くなっていくのではないかと思います。


しかし、第1部最後の「木星」にはびっくりしました!てっきり移調した「比較的容易な」編曲で演奏するのかと思いきや、まさかの原調。Bbクラリネットのみなさま、本当にお疲れさまです。アルトサックスの方々も、たぶん恐ろしい調号の数だったのではないでしょうか。演奏結果そのものについては残念な状態ではありましたが、この難曲に挑んだ心意気には敬意を表したいと思います。まー、あれは本当に難しい!わかります!


オーケストラ楽曲を吹奏楽編成で演奏するのは、大変な困難が伴います。吹奏楽(を編成する主要楽器)が演奏しやすい調に移調されるケースが多くありますが、あれは原曲の魅力を大きく損なうものであると考えています。僕個人的には、調性は楽曲の「色」であると思っています。「青で塗られた絵を模写したら緑になりました!」だと、あまりにも違和感がありますよね。なので、今回の「木星」の原調演奏への姿勢については、僕は心から拍手を送りたいと思います。


ということで、第1部を聴き終えた段階では、この先に大変な不安を感じていました。でも、ポップス演奏になると化ける楽団もあるしね、もしかしたらJRさんもそうかもね、なんて思いながら第2部が開幕。


うん。まさにそのとおり!


「水を得た魚」とはまさにこのことで、楽団員のみなさんの解放された表情や音を感じて、「ああ、ここは本当はこういうのやりたかったんだw」ってことを思いました。
特にベテランの奏者の方のソロ演奏は秀逸で、自由で説得力のあるものでした。聴いていて心から楽しくなる演奏なんて、なかなかできるもんじゃないですよね!


となりのトトロ」などは、周囲の座席の子どもたちも体を乗り出したり跳ねたりしながら聴いていました。子どもに喜んでもらえる演奏っていいですよね。ご家族の方も、連れてきてよかったと思ってるじゃないでしょうか。


あと、「GET IT ON」は最高でした!この楽団はブラスロックが似合いすぎるなー。ブラスの強烈なリフの音の処理をしっかり研究すると、もっとエッジの効いた刺激的な演奏になると思います。
「ど演歌えきすぷれす」は、もうこの楽団ならではの演出でしたね。ほかのどの楽団も真似できない!


第2部は、聴衆の盛り上がりも第1部の比じゃなかったです。素晴らしいステージでした。ありがとうございます。


最後に、指揮者のお二方。十分な練習時間が確保できなかったのかも知れません。そんな中でのステージ、本当にお疲れさまでした。お二方とも、メンバーの自由で楽しい演奏を引き出すのが上手だなって思いました。
アンケートにも書いちゃいましたけど、スコアを大事に取り扱ってくださいね。作曲家や編曲家が魂を込めて作った曲のスコアです。敬意をもって対峙してくださるとうれしいです。


難点こそあれ、その演奏や活動の姿勢には大変惹かれるものがあった楽団でした。また来年のコンサートも聴きに行きたいと思います。素敵な体験をありがとうございました!